The Klein-Gordon Field (5)
前回までで,簡単に単純な調和振動子の復習をし, と を昇降演算子で書いたので,ハミルトニアンを昇降演算子で書く準備ができたのだった. と で書かれたハミルトニアンの式
に,(2.27),(2.28) を代入していく*1.まずは各項の計算を先にやっておく.
また,前回単純な調和振動子からの類推で書いた の式
の第二項で と変換すると, に注意して,
これの複素共役は, を用いると,
は実数値の場なので, でなければならない.それゆえ, と変換しても結果は変わらない.さて,上で計算したものを (2.8) に代入すると,
ここで,
となる.ただし,最後の行への変形で としてもよいことを使った.したがってハミルトニアンは,
となる.第二項は無限大のc数である に比例する.それは零点エネルギー のすべてのモードの単純な合計であり,実験では の基底状態からのエネルギー差のみを測定するので,この無限大は実験的に検出されない*2.それゆえ,これからはこの無限の項を無視する.
と に関するこのハミルトニアンの式を使うと,以下の交換子
を簡単に確認できる.実際,次の公式
および, と に関する交換関係 (2.29) や,
を用いると,
となり,
を得る.これで,調和振動子と同じようにスペクトルを書き下すことができる.全ての に対して, のような状態 は基底状態もしくは真空である.つぎに,状態 について考えてみる. や (2.32) を使うと,
以上より,
となり,状態 はエネルギー を持つ の固有状態と分かる.つまり,演算子 はエネルギー を生成する.
つぎに,(2.31) に似た計算を (2.19) で行うことにより,総運動量演算子を求めることができる.
なので,
ただし,最後の行への変形は,第一項と第二項で の変換をした.ここで,第一項と第四項は について奇関数なので,結局,
ハミルトニアンのときと同様の計算により,
であり,
が成り立つ.状態 は運動量 を持つ.つまり,今までの結果も踏まえると,演算子 は運動量 とエネルギー を生成する.これらの励起された状態を粒子と呼ぶのは自然である.なぜなら,それらはエネルギーと運動量を持つ離散的な存在だからである.これ以降, を という.これは粒子のエネルギーであり,常に正である.
これより,粒子の統計を決定することができる.2粒子状態 を考えよう. と は交換するので,この状態は2つの粒子が交換された状態 と同じである.したがって,Klein-Gordon 粒子は Bose-Einstein 統計に従うと結論付けることができる.
少しまとめると,真空状態 に を作用させていくと,
のように,とびとびの状態が作られ,それらはエネルギー と運動量 を持つ.この,Klein-Gordon 場が励起された状態はエネルギーと運動量を持つ離散的な粒として解釈でき,それはまさに粒子である.つまり,演算子 が一回作用するごとに粒子が一つ生成されていると思えるのだ.
また,bose 粒子は粒子の入れ替えで波動関数が対称となるような粒子であるので,上で見たように Klein-Gordon 粒子は bose 粒子である.
The Klein-Gordon Field (4)
2.3 The Klein-Gordon Field as Harmonic Oscillators
今回から 2.3 節に入る.
まずは最も単純な Klein-Gordon 場から議論を始める.これまでに学んできた Klein-Gordon 場の古典理論を量子化するために, と を演算子に昇格させ,適切な交換関係を課す.離散的な系の場合,交換関係は
であった.連続的な系への一般化は,クロネッカーデルタの代わりにディラックのデルタ関数を使えばよい.
ここでは, と が時間に依存しない Schrödinger 表示を採用する.
と の関数であるハミルトニアンも演算子になる.つぎにすべきことは,ハミルトニアンのスペクトルを見つけることである.場を Fourier 展開して,
( であり, が実数となるように)すれば,Klein-Gordon 方程式 (2.7) は以下のようになる.
これは振動数が
単純な調和振動子は,我々がすでに見つけ方を知っているスペクトルを持つ系である.以下では簡単にそれを復習する.ハミルトニアンを次のように書く.
正準交換関係 は,
と同等である.今,ハミルトニアンは,
と書ける. のような状態 は,零点エネルギーである を固有値として持つ の固有状態である.さらに,交換子
によって,状態
は、固有値 の の固有状態であることを簡単に確認できる.これらの状態はスペクトルを取り尽くす.
我々は,同じやり方で Klein-Gordon ハミルトニアンのスペクトルを見つけることができるが,今,場の各フーリエモードは独自の と を持つ独立した振動子として扱われる.(2.23) からの類推で,
のように書ける.これ以降の計算では,(2.25),(2.26) の第二項において, の変換を行って得られる次の式が便利である.
交換関係 (2.24) は,
となり, と の交換子が,以下で示すように正しく計算されることが確認できる.
なので,
となり,デルタ関数の公式
も用いて計算すれば,
Noether current (2.16) の別導出法
前回,保存された Noether current が (2.16) で与えられることを示した.そこでは と を独立な場として扱ったのだった.今回は を実部と虚部に分けて計算していく.つまり, とする. 無限小変換の式: , より,
なので,
を用いると,
なので,
ここで,
したがって,
を得る.
The Klein-Gordon Field (3)
■ Noether's Theorem
次に,Noether の定理にまとめられた,古典場の理論における対称性と保存則の関係について議論する.この定理は,場 に関する連続変換に関するもので,無限小形式では,
と書くことができ,ここで は無限小パラメータ, は場の変化である.我々は,運動方程式が不変である場合にこの変換を対称性と呼ぶ.これは,作用が (2.9) の下で不変の場合に保証される.より一般的に,我々は作用を表面項によって変化させることができる.なぜなら,そのような項の存在は Euler-Lagrange の運動方程式 (2.3) の導出に影響を与えないからである.よって,ラグランジアンは (2.9) の下で任意の に対して,4元 divergence まで不変でなければならない*1.
また,
として, を計算していく.
第二項は Euler-Lagrange 方程式 (2.3) によって消えるので,
となる.電荷保存の式 の 倍を引いて,
これが に等しいとして,次式を得る.
この結果は流れ が保存されていることを示している. の各連続対称性に対して,このような保存則がある.また保存則は,電荷
が時間的に一定であるということによっても表現できる.なぜなら, より, であり,両辺積分すると,
右辺は表面項ゆえゼロとなるので,
を得る.
このような保存則の最も簡単な例は,運動項のみのラグランジアン: から生じる.変換 は, を不変のままにするので,流れ が保存されていることがわかる.
次の例として,ラグランジアン
を考える.ここで, は複素数値の場である.このラグランジアンに対する運動方程式が Klein-Gordon 方程式 (2.7) になることは容易に示すことができる.さて,このラグランジアンは変換: の下で不変である.無限小変換なので, とも書ける.これらから,以下の関係式が得られる.
つまり,
(ここでは と を独立な場として扱う*2.あるいは, を実部と虚部にわけて考えることもできる*3.)
このとき,保存された Noether current が
であることを示すのは簡単である.方針としては,変換: でラグランジアンがどのように変換されるかを調べればよい.
より,
これより, となり,保存する current は,
となり,示された.また,この current の divergence が Klein-Gordon 方程式を使うことでゼロになることも確かめることができる.
ここで,Klein-Gordon 方程式: より,
なので,代入して,
となり,確かめられた.後にこのラグランジアンに項を付け加え,電磁場へも理解を広げる.
Noether の定理は,平行移動や回転のような時空変換にも適用できる.無限小変換
を,場の変換
として書ける*4.このときラグランジアンがどのように変換されるかを調べる.
ここで,
ゆえ,
となる.この式を (2.10) と比較すると,今,ゼロでない があることがわかる.(2.11), (2.12) のときと同じような計算を行うと,
第一項は Euler-Lagrange 方程式よりゼロなので,
となり,これが に等しいとする.
これは正確には,場 中のエネルギー運動量テンソルとも呼ばれる,応力エネルギーテンソルである.
ここで,添字の上げ下げをすると,
よって,
これより 成分と 成分が計算できる.
以上より,時間変換に関する保存された charge*5 は,ハミルトニアン:
であり,空間変換に関する保存された charge は,
である.我々はこれを場によって運ばれる(物理的な)運動量して解釈する(正準運動量と混同しないように.).
についての補足
これも Noether current の1つであり, を満たす.つまり,
両辺積分すると,
となる.第二項は表面項ゆえゼロとなり,第一項から上の (2.18),(2.19) が導かれる.また,(*) は連続の式ゆえ,第二項は湧き出し(あるいは流れ)と解釈できる.
(2.18) は に対応しており,このとき第二項は である.これはエネルギーの流れである.また,(2.19) は に対応しており,このとき第二項は である.これは運動量密度の流れである.
ハミルトニアン導出の補足
前回,連続的な系におけるハミルトニアンが
であることを導いた.しかし,場の理論の初学者がこのハミルトニアン導出までの流れを一読して理解することは難しい.ここでは無限個の調和振動子が並んだ一次元系を例に,この流れを再現する*1.以下の議論を各々3次元系へと拡張すれば,前回の内容も少しはわかりやすくなると期待される.
さて,上述の通り,一次元系に無限個の調和振動子が並んでいると思おう. 番目の調和振動子の座標を とし,各調和振動子は間隔 で並んでいるとする.この系のラグランジアンを書くと,
となる.系が離散的なので, , であることを使った.
ここで,
とする.ここで, である.このときハミルトニアンは,
と求まる.これを3次元系へ拡張すれば,確かに前回導いたハミルトニアンや共役運動量密度の式が出る.
The Klein-Gordon Field (2)
2.2. Elements of Classical Field Theory
この節では,後の場の量子論の議論で必要となる古典場の理論を学ぶ.
■ Lagrangian Field Theory
古典力学の基本的な量は作用 で,それは Lagrangian の時間積分である.局所場の理論では,ラグランジアンは で書かれるラグランジアン密度の空間積分で記述され,場 とその微分 の関数である.つまり,
最小作用の原理とは,ある系が時間 から の間に時間発展するとき,作用 が極値(普通は最小値)となるような経路に沿うということだ.
我々はこれを次のように書く.
最後の項はガウスの定理から表面積分へと変形され,積分領域の境界で とすると,この項はゼロとなる.したがって,任意の に対して上式が成り立つ条件から,場に対する Euler-Lagrange 方程式が導かれる.
■ Hamiltonian Field Theory
ラグランジアン形式の場の理論は,明らかにローレンツ不変な式で記述されるので相対論的運動に適している.しかし,ここでは量子力学との対応が容易いハミルトニアン形式を学ぶ.
離散的な系では力学変数 に対して,共役運動量 (ここで, ) を定義でき,ハミルトニアンは であった.
さて,
ここで,
は, に共役な運動量密度と呼ばれる.こうして,ハミルトニアンは次のように書ける.
また,系が連続的なときは次のようになる.
単純な例として,以下のラグランジアンを考える.
ここでは として実数値の場を考える.このラグランジアンに対する運動方程式は,ふつうに計算すれば求まる.
を用いれば,
また,
これらを場に関する Euler-Lagrange 方程式に代入すると,
を得る.これはよく知られた Klein-Gordon 方程式である.また, に共役な運動量密度は であることに注意すれば,ハミルトニアンは,
となる.3つの項はそれぞれ,時間内の移動のエネルギーコスト,空間内の剪断のエネルギーコスト,場を周囲に持つエネルギーコストとして考えることができる.
The Klein-Gordon Field (1)
Peskin-Schroeder : An Introduction to Quantum Field Theory を読んでいく.1章は飛ばして,Chapter 2 - The Klein Gordon Field から始める.
2.1. The Necessity of the Field Viewpoint
ここでは,通常の量子力学では因果律が犯されてしまうことを確認し,場の理論を含む,多粒子理論の必要性を述べる.
まず,位置 から への自由粒子の伝播振幅 を考える.
ここで,
である.非相対論的エネルギーは, なので,
となる.ここで,完全性条件
を使った*1.
量子力学における関係式
を使って計算を進めると,
となる. 積分は全て同じ結果を与えるため, 積分のみ実行すると,
したがって,
を得る.これは全ての についてゼロでなく,粒子が任意の短時間にどの2点間も伝播できることを意味している.
相対論的エネルギーの式: を使えば解決されると思うかもしれないが,以下で見るように,実はそうもいかない.非相対論的な場合からの類推で, は以下のように計算できる.
ここで,
なので,結局,
となる.この積分は Bessel 関数で評価できるが,ここでは停留値法を使って, (光円錐の外側)の漸近的振る舞いを調べることにする.
少し遡って,
の第二項について考える. の変数変換を施して第二項を計算してゆくと,
となり, とすれば被積分関数は第一項と同じ形となる.ゆえに,
と変形できる.ここで,exponential の中身を位相関数: とする.
これの停留値を求めるには, を解けばよく,これを満たす を とすると,
ここで以下のような, から に伸びる長方形型の積分経路を考えると,端は無視できて,コーシーの積分定理より2つの横向きの経路積分の値は一致する.
停留値法より,
ここで,
より,
では,
であることを用いた.
よって,伝播振幅は小さいが,光円錐の外側でゼロでなく,因果律は未だに犯されている.
本来,完全性条件は世の中の全ての状態を足し合わせて作られるべきだが,従来の量子力学では1粒子状態のみを考慮していた.それゆえ不完全なものであり,このような因果律違反が起こる.対して,場の量子論は2.4節で議論するが,因果律の問題をきれいに解決する.